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泉美木蘭
2023.7.13 16:22

りゅうちぇるの自殺に思うこと

体は男性に生まれて、内面の性が女性であるトランスジェンダーの人が、
定期的に女性ホルモンを投与するというホルモン療法を受けることが
あるけれど、ものすごく精神的なアップダウンが激しくなり、
うつ状態と闘わなければならなくなるという証言をよく聞いてきた。

女性でも、毎月の生理周期や更年期などでホルモンバランスが変わり、
頭痛など体の不調のほか、精神面の不調が起きて、
本人の意識や気合いでは解決ならないほどひどく悩まされることがある。
ピルを服用すれば、その悩みを改善できると言われても、
あれは頓服ではなく、毎日毎日、同じ時間に必ず忘れずに
飲み続けなければならないシート状の薬で、自分には無理だと思った。
必死で1カ月忘れず飲んだところで、力尽きて飲まなくなり、
それまで飲んだものが“意味なし芳一”になりそうだ。

トランスジェンダーの療法となると、人工的に女性ホルモンを投与する
ことになるのだから、よほどの苦痛に耐えなければならないのだろう。
肉体的な変化が起きるほどなのだから、副作用は強烈なはず。

りゅうちぇるが、「ホルモンバランスが崩れて大変だ」と深刻な様子で
話していたという知人談を聞いた。
ホルモン療法かどうかはわからないが、
「女の子は本当大変なんだ。毎月生理とか本当に尊敬する」
「これから体調悪くなるのが見えてるけど負けない」
と話していたらしい。
そこに、偏見や勘違いによる誹謗中傷が絶えないというのは、
わかっていたことだとしても、つらかったろう。

婚姻関係は解消しても、家族と一緒に暮らしていて、
息子の幼稚園の送り迎えも、りゅうちぇるがやっていたという。
元妻と子育てしていこうと努力しながら、自分の道を歩こうとし、
タレント活動もしていた。
私よりちゃんとしている人だ。

もし自分が同じ立場だったら…という想像しかできないが、
一度は男性、父親として生きていこうと思いつつ、
日々心のなかで揺れ動いては、強まっていく
「やっぱり女性でありたい」
という性自認とのジレンマには苦しんでしまうだろうし、
それは、ファッションや仕草などの容姿や、
人前に出るモデルとしてのクオリティの問題だけでなく、
出産し、母乳を与えて子どもを抱く、母性あふれる妻の姿を見て、
自分には得られない女性性というものを、
あまりにも生々しく、目の前で知ってしまい、
性差に対する強烈な思いに苦しまざるを得なくなるということも
起きると思う。

芸能界であれば、ホルモン療法や手術を受けた人も身近にいて、
可能性があるなら、その道を生きたいと望むのは自然だと私は思う。
そのことを妻のぺこも理解してくれていたのだから。

私がこれまで新宿二丁目で知り合ってきた人々は、
レズビアンでも、100%女性だけが好きという人もいれば、
「女性70%、男性30%ぐらい」という人もいる。逆もしかり。
子どもの頃から違和感がはっきりしていた人もいれば、
あとになって、だんだんと「あれ?」と思う出来事が増え、
はっきり自認するに至るまでは、かなりの年月があったという人もいる。
バイセクシャルの女性で、最初は男女交互に好きになるパターンだったが、
30代後半になってから、恋愛対象が女性だけになったという人もいた。
まったくの「人それぞれ」。

私も「人それぞれ」への理解が足りなくて、今思えば失礼なことを
言ってしまったなと悔やんでいることもある。
でも、どういう人生を背負っていて、どんな悩みを抱えながら生きる人が
いるのか、「どうせわかってもらえないから」という気持ちで口をつぐんで
偏見に耐えていたことがあったのだろうなということは、
誠実さがあれば、「少数者だから」という条件なしに受け入れていくことが
できると思う。
そのためにも、まずは発信したい、知ってほしいという当事者たちの声には
関心を持ち続けたい。

 

泉美木蘭

昭和52年、三重県生まれ。近畿大学文芸学部卒業後、起業するもたちまち人生袋小路。紆余曲折あって物書きに。小説『会社ごっこ』(太田出版)『オンナ部』(バジリコ)『エム女の手帖』(幻冬舎)『AiLARA「ナジャ」と「アイララ」の半世紀』(Echell-1)等。創作朗読「もくれん座」主宰『ヤマトタケル物語』『あわてんぼ!』『瓶の中の男』等。『小林よしのりライジング』にて社会時評『泉美木蘭のトンデモ見聞録』、幻冬舎Plusにて『オオカミ少女に気をつけろ!~欲望と世論とフェイクニュース』を連載中。東洋経済オンラインでも定期的に記事を執筆している。
TOKYO MX『モーニングCROSS』コメンテーター。
趣味は合気道とサルサ、ラテンDJ。

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